JR山手線の新橋と有楽町のちょうど真ん中あたりの雑居ビルに海がある、といってもなんのことやらさっぱりわからないだろう。以前大井町にあり、銀座で最近2回目の引っ越しをした寿司「さいしょ」がそこにある。
なんだかんだで都合何度かおじゃましているこちらの店は通常時もとびきりのいいネタでおいしい寿司や料理を食べさせてくれるのだが、今回の目的はいくら、ただそれのみ。
ビルの3階までエレベーターであがり扉をくぐるとこじんまりとした店内にカウンターとテーブル席がある。
いくらといえば普段は寿司桶のすみっこに控えめに佇まいながらも頭上に燦然と輝くそれを隠しきれずに人を惑わせ、限られたそれを手にするための寿司桶の戦いが日本の至るところで勃発しているのはいうまでもない。だが今回は違う。争う必要などない。なぜならばいくら祭りだからである。
「なぜならばいくら祭りだからである」とかいっていやどういうことだよというツッコミを抱いた方に、予習と復習をかねて前回に自分が参加したうに祭りの写真をご覧いただこう。
お分かりいただけるだろうか。広大なうにの海を。
ここまでうにがうにうにしていると若干うにのゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
1人あたり20巻ほどのうにの軍艦に攻めいられて落ちない者などいないだろう。
ということを踏まえて、いくら祭りである。もはや期待が膨らむほかない。
今日は天気がいいので外で乾杯しようかといって屋上にいくという店長のおちゃめさからスタートし、まずは戻りがつおとブリと白魚の刺身をいただく。
おいしい刺身は味はもちろん口当たりが本当にいい。とろりと口の中でなくなっていく。用意された辛口と甘口のしょうゆをそれぞれ使い、つけて、食べる。日本酒をのむ。ああ、うまい。
今日はいくらだけの予定だったけれど、旬の最後のさんまがはいったから、ということでさんまの塩焼きが。
さんまのこんがりと焼かれたパリパリの皮、ほろほろの身、苦みのきいた肝。ああ、秋だ。
予想外にありつけたさんまに程よく浸っているその目の前のカウンターで、手際よく店長がメインディッシュの盛りつけをしていく。その様子にうっかり見入ってしまう。
そうしてトンとカウンターにおかれた板の上にはきらきらと光を放ついくらの海が。
もはやベタに「海の宝石箱や」といっても許されるのではないかというくらいのきらびやかさだ。紅葉のシーズンの最初にカウンターのうえでこんなにも紅い景色が見られるだなんて思いもよらなかった。いつまで見ていてもあきないような美しさだが、まぁいいかげんはやく食べたい。
はぁぁぁ、うまい。うまいぃぃぃぃぃぃ。
こちらのいくらはしょうゆではなくカツオ出汁をかなりきかせてあり、しょうゆにつけるよりもだいぶさっぱりとしているにもかかわらずいくらの旨みを損なわずに出汁の風味がきいていて間違いなくうまい。いくらを漬けにされてしまうといくらの味ではなくしょうゆの味になってしまっていることもたまにあり残念に思うこともままあるので、出汁いくらは最高に好みだった。
食べても食べてもなくならないいくら。ここに争いのない世界はあったのだ。
いくらだけだとあきるでしょう、とだされたのは歯ごたえのいいイカと。
そして松茸の寿司。
ああ、日本の秋って最高だなぁ。
終いには、この出汁のきいたいくらを存分に味わってほしいといくらの椀が。
いくらとまたその出汁が軍艦のときよりもダイレクトに味わえてしまう。
ビール、日本酒、焼酎などの飲み物飲み放題で、これらの料理で1万円というのだから満足以外のなにものでもない。
このいくら祭り、秋口シーズン限定ということでもう間もなく終わってしまうのと、開催されるのは店次第というところもあり、気になる場合は店のFacebookページをチェックしてほしい。うに祭りも同様だが、こちらはわりあいオールシーズン不定期開催されている。
祭り以外の通常営業コースはwebから予約が可能なので、まずは様子見がてら行ってみるのもいいのではないだろうか。