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PEGGSが誰にとって何が「ひどい」のかを考える

先日からTwitterなどなどで話題の専門学生にイラストを依頼できる「PEGGS」。
そんな世間の声の中に「これはひどい」という感想がまま見られたのだけど、別に全部がダメなわけではないと思うのと、誰にとって何が「ひどい」のかをちょっと具体的に考えてみる。

専門学校生に依頼できる、お仕事イラストサイト、ペグス。 | PEGGS.
http://www.peggs.jp/

サービスの発想自体はステキ


自分の学生時代とか思い出すと色んな経験を積んでおきたいけど、学生しながら案件を受けようと思ったら管理が大変だし経験も少ないから不安っていうような状態だったように思うので、専門学校が主体となって講師が監督しながら色んなところから案件を引き受けられるような体制を作ろうとしたこのサービスは、とても発想としてはステキだと思う。


今までこういうのってサービスとしてじゃなく、学校単位でOJTという形で実行しているところが多かったように思うので、それを内々じゃなくて外に広げていくような手法は、それをやる学生にとっても将来の選択肢が増えるし、企業側も将来有望な学生さんと出会えて万々歳じゃないかな。



「ひどい」のは安いことじゃない


発想自体はとてもいいこのサービスの議論の焦点となっているのは、制作価格が格安なこと。
世の中の考え方の一つとして「学生さんにこんな安い単価で制作させるなんてひどい」というのがあるようなんだけど、自分個人としては、そこはちょっと違うかなと考える。


もしこれが「学生がその金額じゃ嫌だった」のに「学校側が無理やりこの金額でやらせた」なら確かにひどいと思う。
でももし参加している学生さんが金額に納得してサービスに参加してたら、それはひどいんだろうか。
仮に本人たちが納得してたとしたら「そんな安い価格で働かせるなんてひどい!」と思うのは、思うのは勝手だけど、もし本人が納得してのことなら赤の他人がぐだぐだ言っても仕方ないよね。


イラストはもちろん、デジタルデザイン系っていうのは物にもよるけど、そもそも材料費がそんなにかかるものではないから、それを製作する本人さえ了承すれば、どんな破格の値段でだって引き受けることはできる。
タダでだって受けることはできるし製作することはできるけど、それを仕事にする人はタダでは受けない。
製作するのが「仕事」だから、それに見合う「報酬」がないと受けられない。
全然関係ない会社から「ちょっとプレゼン資料が必要だから情報まとめて作ってくれ。お金出せないけどクオリティ高くしてね」とか言われても誰も引き受けないよね。それと同じ。


タダで製作を受けないのは仕事だからなのはもちろん、低価格で仕事を受けない理由は他にもあって、低価格で受けてしまうと同じ製作者の人たちに迷惑をかけてしまう恐れがあるから。




もしA会社から「1000円でA4サイズのポスター用のイラストを描いてくれ」と頼まれたとする。
そして自分が、そのときものすごくお金に困ってて安くてもいいからと引き受けてしまったとする。
そうするとA会社は「1000円でA4サイズのイラストを描いてもらえる」と勘違いしてしまう。
その勘違いのまま、他の人に「1000円で描いてくれ」と依頼するようになってしまう。
依頼された別の人は「そんな価格じゃ受けられない」と値上げ交渉しようとしても、A会社は「前の人に1000円で描いてもらえたんだから、あなただって描けるでしょ」と交渉を拒否する。
それなら安くできる自分に仕事が集まるようになるからいいじゃないかと思うかもしれない。
でも、A会社から評価されているのは「1000円で描ける」部分であって、もしその先「さすがに1000円で受けるのは…」と思い始めて交渉しようと思っても難しくなる。
さらにA会社がB会社に「あの人なら1000円でイラスト描いてくれるよ」と伝えたりしたら、もっとややこしくなる。
1000円の仕事ばかりでは結局生きていけないので、それが仕事として成立しなくなっていったりする。




誰かの迷惑になることは、巡り巡って自分の困ることにもなるのを分かっているから、製作者の人はみんな低価格の仕事を増やさないように日々がんばってる。
逆にそういった状況をふまえて、自分の単価をわかっていて効率よくできる人はお手頃な価格で引き受けようにして、それをウリにしたりもしている。
それは経験とか技術とかがあって、はじめてできるようになるやり方だと思う。



整頓して考えてみると、今回「ひどい」と思われる部分は

  • 学生にそういった「製作側としてどういうことに気を付けていくといいのか」を教えるはずの学校が、率先して低価格を提示したこと
  • 低価格とはいえども、料金が発生する以上「仕事」なのに「学生だから」遅くなると明言してること

の2つ。


まず、学校はただ技術を教えるだけではなくて「製作することを仕事にしていく」のに何に気を付けるのかを教えることを投げ出さないでほしい。
別にあっちからこっちまでキッチリ全部教えろっていうのではなくて、教えきれない部分だからといってないがしろにするようなことはしないであげてほしい。
もし学生さんからとても人気のイラストレーターさんが誕生したのに、最初受けた仕事の単価が安かったばっかりに仕事としてやっていけないような事態になったりしたら、とても悲しい。


そして更にどんなに格安での仕事であろうと「仕事」は「仕事」なので「遅くなる」というようなことがありえてはいけないのだと、きちんと指導してほしい。
仕事には必ず締切があるし、お金をもらって製作する以上はそれに対して責任が発生することなので「学生だから遅くなる」なんていいわけを学校側が許すのはおかしいとは思わないのだろうか。
もし「学生だから遅くなる」いいわけを使いたいのであれば、そこはOJTで学校と会社側で調整をちゃんとできるところとした方がいい。


まとめると、「学生だから」を免罪符にするのを学校が主体となってするのはどうなんだろうってとこ。



そうはいっても


仕組み的にはいいサービスであることに変わりないとおもうし、きちんとできれば色々なステキなイラストを描く学生さんが日の目をあびることになっていくと思うので、いい感じにサービスが成長していくといいな。